地を這う魚

私はですね、吾妻ひでおという人がこんなにすごい人だとは思ってなかったんですよ。
…いやこれは変な意味ではなくて。
以前「失踪日記」を読んで、面白いなと思って、その時にああこういう漫画を描く人なんだと思って。
でも、失踪日記はやっぱり普通の漫画だと思うわけです。一方、「地を這う魚」の方は、
そういうのとはちょっと違って、すごい漫画だなと思ったわけです。


面白いかと言われると、それはちょっと微妙です。
普通に誰でも面白いと思うのは「失踪日記」の方だと思います。「地を這う魚」も
つまらなくはないですが、単純に面白いというよりも「興味深い」という感想が
出てくる方の漫画です。


「実話を下敷きにしている」「自伝的コミック」ということなのですが、それが自伝「的」
である所以は、漫画仲間がワニであったり、アシスタントとして働いている漫画家先生が
ウマであったり、周囲を海の生き物や謎のマシーンが徘徊していたりする所にあります。
ストーリー自体は自伝に近いものなのですが、おそらくは吾妻氏本人からの視点で見た
世界を、漫画らしくデフォルメして表現しているのだと思います。女の子のみまともな
人間の形をしているのは、吾妻氏が当時それだけそれを女の子として意識していたから
だと思われます。知り合いが皆動物なのは、彼らの外見よりもむしろ内面というか
キャラクタの部分を強く意識していたためではと、まあその辺は私の解釈ですが。
要するに当時の記憶を、漫画を媒体として、思うままに自然に吐き出したしたような
漫画なのだと思います。徘徊する異形の者は実に多種多様で、本当に一コマ一コマを
眺めていく価値があります。


手首に目と口がついたような生き物(奴々というそうです)が、主人公にいつも
付いてきているみたいで、かわいいです。