集積回路のヒマワリ

集積回路のヒマワリ (FC gold)

集積回路のヒマワリ (FC gold)

三原ミツカズという作家を知ったのはごく最近、今年に入ってからです。
最初に「毒姫」を読み、ネタにしようと思っていたところでこの単行本を読んだのでした。
その後、「DOLL」を読み、「HAUNTED HOUSE」「beautiful people」と、コンプまっしぐら状態です。


簡単に言って、レベルの高い作品群であると私は感じます。
その中でも特に感慨深いものを感じたのが、表題作、および同単行本に収録されている、
「ゴムのいらない子供たち」なのでした。


集積回路のヒマワリ」はその後連載となった「DOLL」の前身に相当する作品(だそう)で、
家事雑用及びその他の目的の為に作られた精巧なアンドロイドと、ある老人との関係を描いたものです。
この作品の結末を絶望と読むか救いと読むかは意見の分かれる所かもしれませんが、私には救いと感じられました。
どこまでも従順で、どれほど醜い精神を持った人間に対しても怒りもせず恨みもせず、
純粋に全てを受け容れるドールは言わば人の目指すところの聖人にも近い存在で、
愚劣な人間に貶めることのできない確固とした崇高さを擁している。
(その精神は人間離れしすぎていて、もはや、そしてやはり人間ではないのです。)
もうひとりの主人公はドールの存在によって本当に大切なものを取り戻した人間であり、
たとえその未来がどのようなものであったとしても、偽りの世界を生き長らえるよりは、
人として納得のいくものであるだろう、と思うのですね。


「ゴムのいらない子供たち」は、その切り口が極めて斬新だと思いました。
さほど遠くない未来、ある世代から性欲が消滅していき、狼狽する社会を淡々と描く作品です。
子供に性への興味を喚起しようと躍起になる社会、教育の現場と、ただそれを学校の勉強としか
受け取れない子供達の感覚が、非常に新鮮です。
現実世界における学校教育に対する痛烈な皮肉(構造自体は現実の映し絵でもあるわけです)を感じたり、
また登場する校長先生が必ずしも教育の成果ではなく子供の素直な意思に理解を示そうとする場面から、
作者が決して単なるステレオタイプで否定的な見方でこの世界を見ている訳ではないという意識が感じられて、
作品の質を常に1つ深いものにしているように思われたりします。


「DOLL」も、面白かったです。
アンドロイドというテーマ自体はよくあるものですが、そのテーマをここまで突き詰めたものは
他にないかもしれない、と思ったりします。


と、いうわけで、べた褒めなのです。はい。