蟹工船

ネットカフェ難民の間で流行っているという噂を聞いたのが切っ掛けで、蟹工船を読んでみた。


なるほど、読みやすい。口コミで広がるのも分かる気がする。
これはある意味では共産主義の啓蒙書のようで、大衆向けの、解り易い表現を意識しているらしい。
60年の未来までその思いを伝えられる表現はとても素晴らしいものだと思う。
私は、多くの読者に伝わることを慎重に配慮する作家の姿勢はとても好きだ。


共産主義の発想は悪くないものだと思うけれど、現実には成功を収めていない。
著者が生きていたら、ソ連の崩壊等をどのような思いで眺めるのだろうと思う。
当時の活動家集団などは、全体的に知性が高めで、理想に燃える人々が大勢を
占めていたのではないかと思う。そういったメンバーばかりを見て、その思想が
いかに優れたものであるかということを認識していたのかもしれない。
しかし一つの国レベルでそれを行うとすれば、愚かで無気力で小汚い人間が
大量に混ざることになる。その中で体制を維持し続けることができるのか……
という問題があるのだろう。


結局のところ「○○主義」等というものは、手段に過ぎないのかもしれない。
それよりも、その社会を構成する人々の意識の高さが、理想の社会を目指す力に
なっているのではないか、と思う。


より良い世界のためと考え、作品を生み出し、命を落とした。共産主義を広めることよりも
その思いと生き様を現代に伝えられていることが、何より大きな成果なのかもしれない。