ヘヴン

ヘヴン (白泉社文庫 え 1-14)

ヘヴン (白泉社文庫 え 1-14)

遠藤氏は、控えめに言って絵があまり上手ではありません。
絵が下手な漫画家は割といます。まあ量描いているので普通人よりは
上のレベルで分布していますが、本気で上手い絵を描けと言われると
困る漫画家は結構いるのではないかと思います。
もちろん私は、そんなのより遙か下のレベルで絵が描けない訳ですが。


絵が下手な漫画家は、下手なりにそのスタイルを洗練させる事で、
下手さを個性に転化して戦います。それはそれで、読者としては見るべきものがあり、
漫画として十分楽しめるものになります。
遠藤氏はおそらく、画風を「個性寄り」に振り捨てなかった層の中で、
最底辺近辺に鎮座されるお方ではないだろうかと思います。 なんて言い草だ!


そういう、下手さを感じさせる絵なのですが、その一方でキャラに妙な可愛らしさがあります。
等身が少なめなのですかね。毒を持ちつつも人好きのするキャラの性格と相まって、
首の位置ズレてないかとかコマの枠線がジャギーとか細かい事はどうでもよくなります。


さらに話をややこしくさせますが、この「ヘヴン」は氏の作品の中ではかなり絵に力が
入っている方です。まあそんな事はどうでもいいぐらい物語の方が面白いのですが。
とにかく本編がシリアスなので、絵をギャグにする訳にいかなかったんでしょうな。


「ギャグにする訳に」等と書きましたが、結構笑い所も多いです。シリアスを笑いで
繋いでる、ぐらいのペースに近いでしょうか。硬軟織り交ぜた展開はベテランならではと
いう感じです。


「ヘヴン」
舞台は核で滅びかけた今より少し先の未来。物語は、軍人くずれの女マットと少年型の精巧な
ロボット(≒アンドロイド)ルークとの出会いから始まります。図らずもマットはルークの
所有者となってしまい、面倒を見る事に。元軍人の腕を買われてやっと見つけた職場の
医療刑務所にはある秘密が…これが最初のエピソード。


全体はそのエピソードを含む「ヘヴン」と「ヘヴン2」で構成され、ヘヴン2はヘヴンより以前の
核戦争前の時代の話。ヘヴンでの幾つかの伏線と、ルークの生まれの秘密が語られます。
全てのエピソードは連綿と繋がっており、最後のエピソードを読み終えた時、ひとつの作品として完結します。
後味は悪くないものの全体的には重く、読後は作品タイトル「ヘヴン」の意味を深く考え込んでしまいます。


渾身の一作です。
日記で紹介する漫画は一般の人には今ひとつ薦め辛いタイトルも多いのですが、これなどは
万人に薦められるものですね。