汚名挽回

よく突っ込まれるネタですが、私は未だに一旦辞書を引かないと、「名誉挽回」で正しいのかどうか
不安になります。


「汚名返上」と対になる言葉なので「名誉返上」が明らかに間違いだと気付けば、
正しい方の判断はある程度つくのですが。
この間違いがなぜ起こるかというと、まあひとつには誤用の方が蔓延した時代があったという事があるわけですが。
もっと根本的なところはそもそも「挽回」の意味がよく分からないというところにあります。
というか「挽回」と聞くと、何だか「返上」と似たような意味に聞こえるのですが、何でだろう?
まあ「汚名挽回」の影響なんでしょうが…


「挽回」を辞書で引くと、「もとへもどしかえすこと。とりかえすこと。回復。」とあります。なるほど、
汚名挽回は間違いっぽい感じがあります。でも、「もとにもどす」のなら、汚名をもとにもどす→元々
持っていなかった汚名を元に戻したのだから、汚名を返したという解釈はできないですか?
ではという事で、「挽」を辞書で引くと「引くこと。力を入れて引っぱること。」とあります。
んー、返したという解釈はムリですね。「挽回」の字の意味するところは、引っぱって元に戻す事となります。


挽の訓読みは「ひく」で「引く」に通じるものです。そう言えば、珈琲豆を「ひく」のはこの字でした。
そこまで来て、やっと「挽回」のイメージがつかめてきました。


この際なので「名誉」以外の物を「挽回」している文脈は無いかと軽くぐぐってみましたが、
実に少ない。というかもはや「挽回」のみで「名誉挽回」の意味になっているようです。
さてここで「巨人・坂本!エラー挽回!」という表現が検索結果に出てきました。おやコレは。
素直に考えて「エラー」と「挽回」は表現上切り離されていると思います。
「エラー(を)挽回」ではなく「エラー(によるミスをその後のプレイで)(名誉)挽回」なわけです。
文を短く納めたい事情で、かなり省略が行われている。
……なるほどですね、これが「汚名挽回」のからくりだったようです。


おそらく最初の「汚名挽回」もそのような意図であったのだろうと思います。
「挽回」が「名誉挽回」を意味するので、汚名をそそぎ名誉を取り戻すという意味であったのでしょう。
いつのまにか「汚名挽回」が慣用句のようになってしまい、人々はそれを聞き「汚名を挽回する」という
意味だと思った。しまいには『「挽回」と聞くと、何だか「返上」と似たような意味に聞こえるのですが』
等と言う馬鹿頭があれな人まで現れた。誰とは言わない。


ちなみに「挽」の別字に「輓」があり「輓回」でも同じ意味になるはずです。
これが使われているWeb上のテキストは僅かですが、「頽勢輓回」とか出てきました。
これも汚名挽回的な用法なわけで。


省略表現と考えるなら「汚名挽回」も誤用ではないという結論でした。